名付けてゴールデンブルービーチ

小さな4リットルタンクが運用性が良いのは、ウイングビーチで実証済みである。とても軽く、足場の悪いところを長距離歩くには、安全性を考えても実に便利な代物だ。4リットルと言っても10メートル程度の深度なら、無理なく20分以上は潜っていられる。その小さくて黄色い4リットルタンクを車に積んだ我々4人は、ジャングルの中をひた走った。メンバーは、カシラ、シャチョー、股旅、ひょっとこである。

右手に海があるのは分かっている。しかし、草木に阻まれて、潮の香りも潮騒も感じられない。本当にこの道の先にダイビングポイントがあるのだろうか。2kmほど走ると、右に曲がる道があった。「この辺を曲がれば海に出られそうですね。」曲がってしばらく進むと突き当たった。   私とカシラが偵察に出た。股旅さんとシャチョーは車で待機だ。「車の鍵は閉めておいて下さい。車からは出ないように、念のため・・・」カシラが言った。残った二人はさぞや心細かったであろう。

突き当たったところからは、草を分けながら降りていくことになる。降りていくほどに勾配がきつくなり、波の音が強くなった。一気に視界が開けた。 『 海だ。』   波浪階級2、南東の風、風力2。条件はあまり良いとは言えない。その狭い浜は目指す「ボーイスカウトビーチ」とは別の場所であった。「ここでエントリーしましょう」カシラが言った。   帰りは岩で出来た浅い洞窟のわき道が良さそうだ。洞窟内には誰かの焚き火の跡がある。まったく人が入らないところではないようだ。

  車に戻った我々は、曲がる前の道の先に進むことにした。どうにも冒険心が抑えられない。しばらく走ると突き当たった。この道はここで終わりのようだ。先にはナフタンが確認できる崖に出る道があったが、けもの道である。当然車では入れない。   ここでまた、股旅さんとシャチョーに心細い思いをさせてしまった。   その反対側のけもの道の先にはとてもすごいところがあるようであったが、とりあえず今回は軽く見渡し、浅い洞窟のある浜に戻った。もう日が落ちかけている。余計な冒険心で時間を食ってしまった。ナイトダイビングの準備はしていない。急がなければ。

慌てて機材をセットし、全員で坂を降りる。エンプティーウェイト5.3kgの4リットルタンクは、とても軽くてこのようなときに威力を発揮する。危なげなく海まで降りた我々は、小さな浜を見渡した。   波の砕ける浜からのエントリー。股旅さんとカシラは向かい合ってお互いの肩を両手でつかみ、ホールドしながら歩いている。この方法は、波の荒い場所でのエントリーには最適である。   

波をかき分けながら30mほど歩き、海水が腰のあたりを濡らし始めると、踏みしめる岩の亀裂から深く落ち込んだ底が見えてきた。ここからはスノーケリングで進む。スノーケリングの最中、カシラはポイントを確認しているようだ。   亀裂から沖に50mも進んだろうか。夢中になっているカシラに「早く潜らないと日が沈んじゃうよ」と、シャチョーがいさめた。潜行前に山立てをし、自分の居場所を確かめる。17時11分。潮は上げいっぱい。帰りは楽なはずである。潜行開始。

一瞬にして波音は消え、静寂の世界へ。水深約10m。   30mほど沖のほうに岩の壁が見える。左右にも岩の壁があり、すり鉢状の盆地の中に我々はいるようだ。沖の壁の向こうはドロップに違いない。10mほど先に大きなカツオが一匹泳いでいた。寄ろうかとフィンを動かした瞬間、あっという間に消え去ってしまった。   魚影はそれほど濃くはないが、地形が起伏に富んでおり、面白い。ゆっくりと、ゆっくりと周囲を楽しみながらのダイビング。上を見上げると、夕日の輝きが、まるでゴールドをちりばめたように水面を飾る。思わず浮上し、夕日に向かってシャッターを切りまた潜行する。   17時37分エキジット。24分間の静かな旅であった。

残圧は75。充分に余裕を残した。   4リットルタンクは、エアー消費量が毎分15リットル、圧力200から潜り始めるとして、平均水深10mで22分潜っても35残すことができる。   実際は毎分5.9リットル平均だからかなりの余裕をもってダイビングができることになる。浅場でのダイビングにはもってこいだ。   夕日を背にしたエキジットのシルエットは、さわやかなサイパンの冬を象徴していた。