ベビーオーブンのデビュー物語である。
  この日は、サイパンでも稀な雲ひとつ無いと言っても過言ではない上天気であった。カシラの潮見により最良のタイミングで潜ったダイビングもまた素晴しいものであった。午前の2ダイブで終わり午後の予定は無かった。
  クラブハウスに戻ると、カシラは階段下の物入れから何やら取り出してきた。何かと思えば、超小型のダッチオーブンだ。股旅さんが持参したものだが、まだ一度も使われていないという。
  まるで事前に打ち合わせがされていたかのように、女将が名鉄マーケットの広告を手に、今夕刻アサリが入荷するので酒蒸しにしようと言う。酒好きの私に異論を挟む余地は無い。早速名鉄に電話注文だ。
  焚き木は、壊れかけた屋外用テーブルを一部解体し、二日前に作ってあった。これで材料は揃った、あとは夕刻になるのを待つだけである。
  カシラは、ピックアップトラックの車検に出かけた。私は、陸上写真の下見にマイクロビーチからタナパグビーチ、そして、ラフェイスタの裏山までドライブであった。
  あちこち寄り道した下見ドライブは、思った以上に時を費やした。
  クラブハウスに戻ると、薪もオーブンも、焼き芋に使おうとカシラが集めていた枯葉も、焚き火の場所である芝生の庭に運ばれていた。でも、カシラの姿は見当たらない。どうせまたエースにでも出かけたんだろう、火を燃やしビールでも飲みながら待つことにするか、と思う私だった。
  椰子の枯葉を少々もぎ取り、着火用に鉈で焚き木を細く割った。ライターで椰子の枯葉に着火し、その上に細く割った焚き木を乗せただけ、火はうまいこと燃えてくれた。あとは事前に作っておいた薪をくべるだけだ。
  もう消えることが無いほどに燃え盛る炎を喜び、冷蔵庫の冷えたビールを取りにクラブハウスに向かう。ふと西の空を見ると、太陽もだいぶ低い位置になっていた。
  程なくカシラが帰ってきたので、ベビーオーブンのシ−ズニングから始めた。使い始める前にワックスを落としたり焼きを入れたりする作業だ。シーズニングの方法は色々あるようだが、今回は、まずオーブンを強火で空焚きし、焼きを入れると同時に出て来た汚れをふき取り、次に湯を沸かして微細な汚れも除去した。
  そうこうする内に女将がアサリを携えて戻ってきた。ベビーオーブンにアサリを入れ程々の日本酒を注ぐだけである。
  弱火で数分、いとも簡単にベビーオーブンデビューの舞台は幕を閉じた。
  ビール、ワイン、日本酒、ウィスキィ、アサリの酒蒸しは何にでも合う。しばし無言の時が続いた。皆、酒蒸しに夢中になっていたのだ。
  女将心づくしのパスタやサラダもあったのだが、この間、見向きもされなかったことは言うまでもない。
  我に還ったカシラが、コガシラに鮭の下ごしらえを指示した。コガシラは、なかなか慣れた手つきで塩胡椒を振り掛ける、実に上手だ。
  ファンダイバーにもなったコガシラだ。運動能力や知能は、今が伸び盛りなのだろう。
  鮭についてはもっぱらコガシラが担当し、カシラをはじめ我々は、ああしたら、こうしたらと口を挟むだけ、そして酒を飲み続けるだけ、実際に働いたのはコガシラひとりだった。鮭の塩焼きが出来上がったのは、コガシラの手柄である。
  教訓となるよう失敗談も書いておこう。
  その1、焼きバナナを作ろうとトランポリンに吊るしておいたのだが、すっかり忘れてしまっていた。最後の撤収段階で気が付いたのだが後の祭りだった。
  その2、ドラム缶で枯葉を燃やし焼き芋を作ろうとしたのだが、枯葉がスコールで湿っていたのと、石や土が多く混じっていたせいでうまく燃え続けてくれず、一時的には下の写真のように燃えるのだが、結果的には失敗だった。

報告:焚き火塾長